心に響くあり方を探求する

『組織マネジメントの研究Vol.22』【マネジメントの戦略④】イノベーション

テーマ毎のまとめ(マネジメント『基本と原則』/P.F.ドラッガー)

15.マネジメントの戦略④

【1】イノベーション
●イノベーションの歴史
あらゆるマネジメントが、イノベーションの必要を強調する。しかし、イノベーションをそれ自体独立した一つの重大な課題として取り組んでいるものは、組織の大小を問わずあまりない。

多くの組織において、結果はイノベーションではなく改善にすぎない。このことは特に公的な機関について言える。

これまでイノベーションがなおざりにされ、管理的な機能ばかりが重視されてきたことにはそれだけの理由があった。20世紀初め、マネジメントが初めて関心の的になったときには、突如誕生した大規模な人間組織をいかに組織し管理するかを知ることが、最大のニュースだった。これに対しイノベーションは、せいぜい単独の仕事、一人で行う仕事、発明家の仕事とされていた。

しかしわれわれはいま、19世紀後半の数十年に似た激変の時代に入った。

●明日のイノベーション
これからのイノベーションは、19世紀のそれとは著しく異なり、既存の組織において行われなければならない。企業や公的機関は、既存のもののためだけでなく、イノベーションのために自らを組織する能力を手にしなければならない。なぜなら今日、企業や公的機関は、100年前には考えられなかった規模の資本と財を手にしているからである。同時に、研究開発のコストと、その成果を製品や事業へ転換するコストとの比が大きく変わったからである。

イノベーションなる言葉は、技術用語ではない。経済用語であり社会用語である。イノベーションをイノベーションたらしめるものは、科学や技術そのものではない。経済や社会にもたらす変化である。イノベーションがもたらすものは、単なる知識ではなく、新たな価値、富、行動である。

現代というイノベーションにおいて、イノベーションのできない組織は、たとえいま確立された地位を誇っていても、やがて衰退し、消滅すべく運命づけられる。

イノベーションを行う組織には共通の特徴がある。

①イノベーションの意味を知っている。
②イノベーションの力学を理解している。
③イノベーションの戦略を持っている。
④管理的な目標や技術とは別に、イノベーションのための目標と基準の必要を知っている。
⑤マネジメント、特にトップマネジメントの果たす役割と姿勢が違う。
イノベーションのための活動を、管理的な活動のための組織から独立して組織している。

●イノベーションの意味
イノベーションを行う組織は、まず第一に、イノベーションの意味を知っている。イノベーションとは、科学や技術そのものではなく価値である。組織のなかではなく、組織の外にもたらす変化である。したがって、イノベーションは常に市場に焦点を合わせなければならない。市場ではなく製品に焦点を合わせたイノベーションは、新奇な技術は生むかもしれないが、成果は失望すべきものとなる。

顧客のニーズから出発することこそ、明日の科学、知識、技術の姿を明確にし、発明発見のための体系的な活動を組織するうえで、もっとも直截(ちょくさい)な道となる。

●イノベーションの力学
イノベーションを行う組織は、イノベーションの力学というものの存在に気づいている。

(1)確立分布に載る種類のイノベーション
いかなる種類のイノベーションが、製品、工程、事業、市場となりうるかを知る方法を知っている。成果をもたしてくれる分野を体系的に探す方法を知っている。

需要の増大にもかかわらず収益が伸びないときには、工程、製品、流通チャンネル、顧客ニーズを変えるイノベーションが大きな成果を生む。

(2)イノベーションの機会となる変化
人口の変化
すでに発生していながら、その経済的な衝撃がまだ表れていない変化が、イノベーションの機会となる。もっとも重要な変化が人口構造の変化である。

知識の変化
知識の変化はイノベーションの種としては、確実でない。知識の変化の速さはわからないからである。もちろん、知識の変化はイノベーションの機会となる。

意識の変化、ビジョンの変化、期待の変化もイノベーションの種となる。

(3)型にはまらない真に重要なイノベーション
パターン化することのできないイノベーション、世界の動きそのものを変える予測不能なイノベーションがある。それらのイノベーションは起業家が何事かを起こそうとして試みるイノベーションである。それらこそ、真に重要なイノベーションである。それらのイノベーションは確立分布の外になる。それらはもっともリスクの大きなイノベーションである。成功1件につき99件の失敗がある。99件の失敗は、話題にもならずに終わる。

重要なことは、常に目を光らせていることである。この種のイノベーションは、体系的かつ意図的な活動として組織することは不可能である。この種のイノベーションは管理できない。桁はずれに重要ではあるが、まれにしか起こらない。例外として扱わなければならない。

まず初めに、確立分布に載る種類のイノベーションに焦点を合わせ、それを利用するための戦略を持たなければなあない。その過程において、例外的で真に偉大な歴史的イノベーションに対する感覚を育て、その種のイノベーションを早く認識し活用する体制をつくっておかなければならない。

●イノベーションの戦略
他の戦略と同じように、イノベーション戦略もまた、「われわれの事業は何か。何であるべきか」との問いから始まる。

イノベーション戦略は、既存のものはすべて陳腐化すると仮定する。イノベーション戦略の指針は、より新しくより違ったものでなければならない。

イノベーション戦略の一歩は、古いもの、死につつあるもの、陳腐化したものを計画的かつ体系的に捨てることである。イノベーションを行う組織は、昨日を守るために時間と資源を使わない。昨日を捨ててこそ、資源、特に人材という貴重な資源を新しいもののために解放できる。

イノベーション戦略において次に重要なことは、目標を高く設定することである。改善の仕事すなわち新製品の追加、製品ラインの高度化、市場の拡大などは、50%の成功率を期待できる。完全な失敗は半分以下であろう。これに対して、イノベーションの成功率はせいぜい10%である。しかるがゆえに、イノベーションの目標は高く設定しなければならない。一つの成功が九つの失敗の埋め合わせをしなければならない。

●イノベーションの目標と基準
イノベーションのための活動に対して、既存事業のための尺度、特に会計上の慣行を適用することはまちがいである。イノベーションのための活動をただちにゆがめてしまう。

既存事業のための予算とイノベーションのための予算は、別途にしかも別の観点から編成しなければならない。

イノベーションについて発すべき第一の問い、しかももっとも重要な問いは、「これは正しい機会か」である。答えが「しかり」であるならば、第二の問いは、「この段階において注ぎ込むことのできる最大限の優れた人材と資源はどれだけあるか」である。

重要なことは、期待するものを検討し、書き表しておくことである。イノベーションが製品、工程、事業を生み出したとき、それらの期待と比較することである。結果が期待をかなり下回っているのであれば、人材と資金をそれ以上注ぎこむべきではない。

イノベーションのための活動に関して発すべき第三の問いは、「手を引くべきか。どのように手を引くか」である。

●イノベーションの姿勢
組織内に存在する変化への抵抗については、長い間マネジメントの研究の中心的な問題とされてきた。実は、変化に対する抵抗を云々しているかぎり、解決は不可能である。抵抗に焦点を合わせることは、問題を扱いにくくするだけだということである。

重要なことは、変化が例外でなく規範であり、脅威でなく機会であるという真に革新的な風土の醸成として、問題を定義することである。イノベーションとは姿勢であり行動である。特に、それはトップマネジメントの姿勢であり行動である。

トップマネジメントたるものは、アイデアを正面からとりあげることを自らの職務としなければならない。優れたアイデアというものは、常に非現実的であることを知らなければならない。

しがたって、アイデアを奨励するにとどまらず、出てきたアイデアを「実際的、現実的、効果的なものにするには、いかなる形のものにしなければならないか」を問い続けなれればならない。粗削りのばかげたアイデアであっても、実現の可能性を評価できるところまで検討しなければならない。

イノベーションを行うには、組織全体に継続学習の風土が不可欠である。イノベーションをを行う組織では、継続学習の空気を生み出し、それを維持している。ゴールに達したと考えることは誰にも許されない。学習が継続すべきプロセスとなっている。

変化への抵抗の底にあるものは無知である。未知への不安である。しかし、変化は機会と見なすべきものである。変化を機会として捉えたとき、初めて不安は消える。

●イノベーションのための組織
イノベーションの探求は、既存事業の管理とは切り離して組織しなければならない。イノベーションのための仕事は、独立した部門に任せなければならない。

イノベーションは、機能としてではなく事業として組織する必要がある。

新しいことに取り組むことを決定したならば、ただちにプロジェクトマネジャーを任命しなければならない。どの職能別部門からであってもよいし、いかなる技能も持たなくともよい。彼は初めからあらゆる種類の職能を利用できなければならない。研究の前にマーケティングを行ってよいし、製品を手にできるか明らかでない段階で資金計画を作成してもよい。

既存事業においては、今いる場所から行こうとする場所へ仕事を組織する。イノベーションにおいては、行こうとする場所からいましなければならないことへと仕事を組織する。

イノベーションのためのチームは、既存事業のための組織の外に独立してつくらなければならない。既存事業のための組織からは独立させなければならない。

変化ではなく沈滞に対して抵抗する組織をつくることこそ、マネジメントにとって最大の課題である。それは可能である。

要点整理

【1】イノベーション

●明日のイノベーション
イノベーションをイノベーションたらしめるものは、経済や社会にもたらす変化である。イノベーションがもたらすものは、新たな価値、富、行動である。

イノベーションのできない組織は、たとえいま確立された地位を誇っていても、やがて衰退し、消滅すべく運命づけられる。

イノベーションを行う組織には共通の特徴がある。

①イノベーションの意味を知っている。
②イノベーションの力学を理解している。
③イノベーションの戦略を持っている。
④管理的な目標や技術とは別に、イノベーションのための目標と基準の必要を知っている。
⑤マネジメント、特にトップマネジメントの果たす役割と姿勢が違う。
イノベーションのための活動を、管理的な活動のための組織から独立して組織している。

●イノベーションの意味
イノベーションを行う組織は、まず第一に、イノベーションの意味を知っている。イノベーションとは価値である。イノベーションは常に市場に焦点を合わせなければならない。

●イノベーションの力学
イノベーションを行う組織は、イノベーションの力学というものの存在に気づいている。

(1)確立分布に載る種類のイノベーション
いかなる種類のイノベーションが、製品、工程、事業、市場となりうるかを知る方法を知っている。成果をもたしてくれる分野を体系的に探す方法を知っている。

需要の増大にもかかわらず収益が伸びないときには、工程、製品、流通チャンネル、顧客ニーズを変えるイノベーションが大きな成果を生む。

(2)イノベーションの機会となる変化
人口の変化
すでに発生していながら、その経済的な衝撃がまだ表れていない変化が、イノベーションの機会となる。もっとも重要な変化が人口構造の変化である。

知識の変化
知識の変化はイノベーションの種としては、確実でない。知識の変化の速さはわからないからである。もちろん、知識の変化はイノベーションの機会となる。

意識の変化、ビジョンの変化、期待の変化もイノベーションの種となる。

(3)型にはまらない真に重要なイノベーション
パターン化することのできないイノベーション、世界の動きそのものを変える予測不能なイノベーションがある。それらのイノベーションは起業家が何事かを起こそうとして試みるイノベーションである。それらこそ、真に重要なイノベーションである。それらはもっともリスクの大きなイノベーションである。

重要なことは、常に目を光らせていることである。この種のイノベーションは、体系的かつ意図的な活動として組織することは不可能である。

まず初めに、確立分布に載る種類のイノベーションに焦点を合わせ、それを利用するための戦略を持たなければなあない。その過程において、例外的で真に偉大な歴史的イノベーションに対する感覚を育て、その種のイノベーションを早く認識し活用する体制をつくっておかなければならない。

●イノベーションの戦略
イノベーション戦略もまた、「われわれの事業は何か。何であるべきか」との問いから始まる。

イノベーション戦略は、既存のものはすべて陳腐化すると仮定する。

イノベーション戦略の一歩は、古いもの、死につつあるもの、陳腐化したものを計画的かつ体系的に捨てることである。昨日を捨ててこそ、資源、特に人材という貴重な資源を新しいもののために解放できる。

イノベーション戦略において次に重要なことは、目標を高く設定することである。イノベーションの成功率はせいぜい10%である。しかるがゆえに、イノベーションの目標は高く設定しなければならない。一つの成功が九つの失敗の埋め合わせをしなければならない。

●イノベーションの目標と基準
イノベーションのための活動に対して、既存事業のための尺度、特に会計上の慣行を適用することはまちがいである。イノベーションのための活動をただちにゆがめてしまう。

既存事業のための予算とイノベーションのための予算は、別途にしかも別の観点から編成しなければならない。

イノベーションについて発すべき問い)
・第一の問い
「これは正しい機会か」(最も重要な問い)
・第二の問い
「この段階において注ぎ込むことのできる最大限の優れた人材と資源はどれだけあるか」
                     
重要なことは、期待するものを検討し、書き表しておくことである。結果が期待をかなり下回っているのであれば、人材と資金をそれ以上注ぎこむべきではない。

・第三の問い 「手を引くべきか。どのように手を引くか」

●イノベーションの姿勢
組織内に存在する変化への抵抗については、抵抗に焦点を合わせることは、問題を扱いにくくするだけだということである。

重要なことは、変化が例外でなく規範であり、脅威でなく機会であるという真に革新的な風土の醸成として、問題を定義することである。イノベーションとは姿勢であり行動である。特に、それはトップマネジメントの姿勢であり行動である。

トップマネジメントたるものは、アイデアを正面からとりあげることを自らの職務としなければならない。優れたアイデアというものは、常に非現実的であることを知らなければならない。出てきたアイデアを「実際的、現実的、効果的なものにするには、いかなる形のものにしなければならないか」を問い続けなれればならない。粗削りのばかげたアイデアであっても、実現の可能性を評価できるところまで検討しなければならない。

イノベーションを行うには、組織全体に継続学習の風土が不可欠である。イノベーションをを行う組織では、継続学習の空気を生み出し、それを維持している。

変化への抵抗の底にあるものは無知である。未知への不安である。しかし、変化は機会と見なすべきものである。変化を機会として捉えたとき、初めて不安は消える。

●イノベーションのための組織
イノベーションのための仕事は、独立した部門に任せなければならない。イノベーションは、機能としてではなく事業として組織する必要がある。ただちにプロジェクトマネジャーを任命しなければならない。どの職能別部門からであってもよいし、いかなる技能も持たなくともよい。彼は初めからあらゆる種類の職能を利用できなければならない。イノベーションにおいては、行こうとする場所からいましなければならないことへと仕事を組織する。イノベーションのためのチームは、既存事業のための組織の外に独立してつくらなければならない。

変化ではなく沈滞に対して抵抗する組織をつくることこそ、マネジメントにとって最大の課題である。それは可能である。

 

所 見

●イノベーションできない、しない組織はなぜ衰退するのか
ドラッガーはイノベーションしない組織は衰退すると述べている。私の経験からしても、イノベーションを軽視し、現状維持を決め込む組織は必ず衰退する。それには、二つの理由があると思っている。

第一に社会的な時流の変動、すなわち、人口、意識、価値などの社会の変化により、顧客ニーズは変化する。したがって、既存の事業は陳腐化し、事業自体が衰退を招くことになる。

第二に意識の高い人材、有能な人材ほど、現状維持の組織にはいたくなくなる。要するに、真に優秀なイノベーション人材がいなくなる。彼らは、人間が成長するためには、挑戦すること、冒険することが大切だとわかっている。より良きものを追求することが、人間を成長させることにつながることを知っている。また、市場や顧客のニーズを大切にし、イノベーションし続けることが、自分たちの存在価値を高めることも知っている。少なくとも本能的にわかってきる。

そして、イノベーション人材がいなくなり、現状維持ばかりを好む停滞した組織には、優秀な人材が入ってこなくなる。イノベーション人材は入ってこなくなる。社会的評価の低下、組織としてのエネルギー低下、陳腐化した風土が招くことだ。

要するに、イノベーションできない、しない組織は、①事業の衰退を招くか②優秀な人材、イノベーション人材がいなくなるため衰退するのである。結果、組織の存在意義の指標となる社会的評価も下落する。

●トップのイノベーションに対する意識の重要性
トップマネジメントが及ぼす意識の影響は大きい。必ずしもトップマネジメントがイノベーション人材ではない。必ずしもイノベーションを肯定しない。自分の経験からしても、イノベーションに対して抵抗を示したトップマネジメントは少なくない。「日本一の〇〇にしよう!」という類の言葉を嫌う。本気で「日本一」、「世界一」になるためには、イノベーションし続けること、最高で最良のものを生み出し続けること、そのための研究、研鑽を絶えず怠らないこと、そのために一人ひとりがプロフェッショナル、一流であろうと努力し続けることが必要になる。ドラッガーが述べているように、トップマネジメントがイノベーションを肯定しないのは、イノベーションの意義の無知さ変化への不安からくるものだと思う。そして、彼らに共通しているのは、必要性を感じていないということだ。必要性を感じていないのは、トップマネジメントとして必要なキャリア、知性を積んでいないということだ。トップがそうである以上、結果は言わずもがなだ。

●時流を読むことの大切さ
時流を読む、社会の変化を読むと既存の事業がどうなっていくのか見えてくる。人口構造の変化、意識の変化、価値の変化、IT・AIの加速、インバウンド、パンデミック等々。それらによって、既存事業は追い風になるのか、逆風になるのか、成長するのか、衰退するのか。また、新しく必要とされてくるだろう事業も見えてくる。イノベーションの環境は中の体制だけでなく、社会的変化へのアンテナをもつ環境づくりも大切なことだ。

●革新的な風土づくりとしての継続学習
イノベーションは、いきなりやろうと思ってできることではない。その土台としての風土づくり、すなわち、組織としての、個々の継続的な学習が必要だそれはイノベーションの土壌を耕すことになる。すなわち、個々が進化し続けることが、一時的ではなく、絶えずイノベーションを起こすことのできる土壌をつくることになる。多様な個性の尊重は重要であり、イノベーションの源であるが、同じメンバーが知識も意識も現状維持で平行線ならば、イノベーションを絶えず起こせる組織とはならない。

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