心の本業の探求
~自分らしい生き方を求めて~

精神科医、「自殺希少地域を行く」/森川すいめい


その島のひとたちは、ひとの話をきかない -精神科医『自殺希少地域』を行く-

森川すいめい 著

概要&解説

現場の精神科医である森川すいめい医師が実際に『自殺希少地域』である徳島県の旧海部町を訪れ、その原因を探り、まとめた書籍である。

自殺希少地域とは、言い換えれば、幸福度が高い地域と言い換えることができる。
『生きやすさのヒント』がそこにある。
彼は、P・F・ドラッガーのマネジメントの視点でこの地域を考察した。
その地域で見られた特徴的なものは、以下のようなものだった。

  • (1)村人が対話(コミュニケーション)に慣れていること。
  • (2) 大自然と対峙するのではなく、対話をしている(柔軟に対応している)ように見えたこと。
  • (3) 村人の関係は構造的に距離は近いが、『(意外なことに)人間関係が緊密ではなく、ゆるや
    かな紐帯(ちゅうたい)』であること。
  • (4) 明輩組という相互扶助組織があるが、問題を排除するのではなく、受け入れ、みんなで話
    し合い解決する建設的な組織があること。(世界幸福度ランニング一位となった)フィンラ
    ンドの『オープン・ダイアログ(精神疾患をもつ人と薬や診断の前に対話をしていくとい
    うやり方)』にも通じる。
  • (5) また、組織マネジメントの視点でも重要になるが、村の人々の理念であり、共通認識とな
    村の憲章が見えるところに何カ所も置いてあること。すなわち、自由な風土でありなが
    ら、大事なベクトルは合わせているということ。
  • (6) 治安が良く、鍵は開いている家が多いこと。
  • (7) 政治に関心が高い人が多いこと。
  • (8) 人が多様であることを知って包摂しているように見えること。

そこで見えてきたこと、すなわち、生きやすさの中核となるのは、程よい人間関係の距離感であり、その最も重要な核となっていたのは、『対話がたくさんある』という風土、文化であった。

書評

① この本を読んだきっかけ

私は、親類の心の病で私自信が悩んでいて、カウンセラー(臨床心理士)に相談していたのですが、カウンセラーの紹介の紹介で辿りついたのが、森川医師であり、この本でした。本人とも直接お会いすることができたのですが、とても穏やかで優しいだけでなく、肝心なことは、直言できる方でした。

② 対話は人間の生命線

著者が最も強調していると思われる点で、私自身の心に深く届いた言葉は、『呼吸しなければ人は死んでしまう。呼吸と同じように人は対話をする。外の世界と全身を使って対話をする。人は対話しなければ死んでしまう。人が心病むのは人間関係における対話の問題だ。対話は自転車に乗るのと同じでことばで教えることができない。』という部分です。

ちょうど、この本と森川医師に会った頃は、マネジメントでも対話の重要性に気付き始めたころでした。

③ 対話の学び方

会話ではなく、対話。要するに『お互いの心に響き合うコミュニケーションのあり方』となるのではと思います。会話は心が通わなくてもできますし、特段の修練は必要ないと思います。

しかしながら、対話は、体験知性としてしか学べないもの。そして、その心を通わせるコミュニケーションのあり方は、人間の生命線であり、文化の伝承のようなものなのだと思います。血の通った、風土、環境、家族の中で体験的にしか受け継がれないものだということだと思います。

対話は体験的学びなので、対話上手な人と対話をさせていただくことからしか学べないものだと思います。

④ マネジメントの中核をなす対話

国家においても、地域においても、組織においても無くてはならないもの。それが対話だと思います。

対話が成り立つ人間の関係性があれば、自ずとマネジメントの機能は果たされるようになるでしょう。マネジメントのルーツは、人が幸せになるためのものです。

お互いの個性を否定せず、程よい距離感で尊重しながらも、建設的に心を通わせることができる状態があることが、大小を問わず、マネジメントが機能する普遍的な要素になるのだと思います。

人間の個の視点において対話は重要ですが、マネジメントの基本でもあると考えます。

⑤ 時空を超える対話と幸福の因果関係

一昨年、北欧に行ってきましたが、そこには、自然と、個性と溢れんばかりの対話がありました。幸福度が高く、生きやすい地域の特徴なのだと思います。

自己開示し、対話を重ねることで、人の心はより自由になり、解放され、本来の力を発揮できるようになります。目覚めの元となり、心の成長も促します。

自分の可能性に気づき、強みや個性が何であるかが見えてくるのです。その結果、自ずと幸福感も増します。

人々が皆、対話上手になり、『対話文化』が広まり、受け継がれるようになれば、より幸せを感じられる社会になっていくと思います。

人間は幸せになるために生れてきているのですから本望であるはずです。この本は対話がいかに大事であるかを教えてくれる本です。

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