心の本業の探求
~自分らしい生き方を求めて~

哲学と宗教全史/出口浩明

①作者の紹介

出口治明(でぐち はるあき)。立命館アジア太平洋大学(APU)学長。1948年、三重県美杉村生まれ。京都大学法学部卒業。1972年、日本生命保険相互会社入社。企画部、財務企画部、経営企画を歴任。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て2006年、58歳の時に退職。同年、ネットライフ企画株式会社を設立。2008年ライフネット生命保険株式会社に社名変更。社長、会長を10年務めた後、2018年より現職。訪れた世界都市は1200以上、読んだ本は1万冊超。歴史への造詣が深いことから、京都大学の「国際人グローバル・リテラシー」特別講義では世界史の講義を受けもった。主な著書に、『仕事に効く 教養としての世界史』、『全世界史 』、『人類5000年史』、『0から学ぶ日本史講義』、『働き方の教科書』、ベストセラーとなった『人生を面白くする本物の教養』など。

②本書の概要

本書は、作者の意図として、世界を把握し、苦しんでいる世界中の人々を救おうとした偉人たちの思想を紹介することを主旨としています。

主に宗教と哲学の歴史的流れをそれぞれの時代の中心人物をあげながら解説しています。それは単なる羅列ではなく、それぞれの考え方が生み出された時代背景、宗教、哲学の歴史的変遷の背景にも触れながら、更にそれらと関連づけながら、自然科学、心理学など他分野にも触れています。

宗教においては、世界最古の宗教といわれているゾロアスター教から始まり、現在でも人類に多大な影響及ぼしている宗教、すなわち、仏教、ヒンドゥー教、キリスト教、イスラム教、ユダヤ教など主要なものは全て網羅されています。

哲学においては、古代ギリシャ、古代ローマのソクラテスストア派哲学等から始まり、儒教のルーツとなっている孔子、近代の哲学者デカルト、カント、ヘーゲル「神は死んだ」で有名なニーチェ、そして20世紀のヴィトゲンシュタインらまで、やはり主要な人物は全て網羅されています。

本書の特徴としては、様々な写真、絵画、系図や考え方の変遷の年表などの資料が豊富です。更には所々に挟んでいる『ティータイムのコーナー』では、ピックアップされた人物、考え方、背景がより深く学べるようになっています。それらのことから450ページ前後の分厚い書籍ではありますが、飽きさせない工夫、イメージが膨らむような工夫がされています。

個々の事柄の精度という点においては、複数の書籍、文献等によって分析されており、内容の偏りは少ないと思われます。

また、個々の人物、考えを学ぶための推薦図書も記載してあります。

③所 見

(1)人間の本質が求める哲学、宗教
人間は相対として、封建社会、村社会から離脱し、また、革命等を通して自由を獲得して以降、個人としての存在を意識することができてから(精神的な意味において)孤独な存在だと思っています。そして、総じて幸福を得ようとする存在だと思っています。したがって、何某かにその拠り所を得ようとするのだと思います。それは、昔も今も変わらない。その顕著なかたちが、宗教であり、哲学だと思います。一見すると現代では、それらのものより自然科学の方が優勢に見えますが、どれだけ科学が進歩しても、宗教、哲学は無くならないと思います。なぜならば、人間の本質的孤独感を解消することも、人間が求める幸福感も、科学によって解決することは難しいからです。書でも最後に書かれていますが、現代科学の最先端にあるアメリカでも、宗教は無くなるどころか新興宗教が生まれてきているといいます。

(2)物質主義だけで幸せになれるか
近年、引き寄せの法則やFIRE、すなわち、経済的自立を果たし早期退職することに関する書物やYouTubeなどを目にします。それらの現象は現代人が現在、幸せを感じておらず、未来にそれらを手に入れれば幸せになれると考えていることを顕著に示しているものだと思います。

(3)内面が求める答えに示唆を与えてくれる過去の偉人たちとの対話
人間の幸福の価値や求め方は自由なので、それらを否定するつもりはありません。私も興味はあります。物質的、経済的充足も大切なことです。しかし、それを満たしたら、必ず幸せになれるとは考えていません。自らが求める幸せを得るには、人生という荒波に積極的に向き合い、あきらめずに希求し続けること、心や魂を鍛えるために新しいことへ挑戦し続けること、そして、現在懸命に生きる人々との対話はもちろんのこと、書籍を通して過去の偉人たちと対話しながら、生きた知性を得る努力をすることが重要だと思っています。

(4)哲学・宗教史のこれ以上ない入門書
その上で、本書は、過去の叡知に触れるための入口の書として、大変素晴らしい書籍です。あなたに少なからず気づき、ヒントや、救い、幸せを与えてくれる考え方に触れるための『扉の鍵』を与えてくれるに違いありません。私自身もこの本を読んでから、触発されていくつかの書籍を買いました。

今まで、宗教や哲学などには興味はあるけど、どこから手をつけて良いのかわからない。何を読んだら、誰の本を読んだらいいのかわからない。何が合うのかわからない。そんな方々にもお勧めの書籍です。高校の倫理の教科書にすべきと思うくらい洗練された、本当に素晴らしい本です。ぜひ、一読してみてはいかがでしょうか。

(5)最後に
本書は、一般教養知識という視点においても大変意義ある書籍だと思います。また、国際化が進み多様な考え方の背景(例えば多様な人種の宗教的背景)を理解し尊重していく上でも、また、私たちが個々の生き方を追求し、自らの人生をマネジメントしていく上でも、すなわち、セルフマネジメント、自己マネジメントをしていく上でも大変参考となる内容が多分に含まれています。そのことから、今後、本書から私自身が重要だと思うテーマを抜き出し、整理し、短的な研究テーマとしてシリーズで扱っていきたいと考えています。

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