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『哲学・宗教史研究No.1』《世界最古の宗教ゾロアスター》

今回から、先日、書評をさせていただいた出口治明氏の『哲学と宗教全史』について、気になったテーマを取り上げ一つひとつ研究していきたいと思います。

私は以前、世界史の教師を目指していました。夢は叶いませんでしたが、なぜ、世界史の教師になりたかったかというと、壮大な人類の歴史には無限の叡知と真理が含まれていると思ったからです。また、世界を旅しながら、臨場感溢れる授業をして、少しでも人間として深く、広い世界観へ自らも、そして、子どもたちも誘うことを生きがいとしたかったからです。

カタチは違いますが、宗教と哲学の歴史を個々に取り上げ深堀りしていくことで、皆さんのリベラルアーツ(一般教養)として、ひいては、自らをマネジメントしていくための引き出しとなることを期待しています。

  • 尚、補足資料として、世界史用語集(山川出版社)等も活用させていただきます。

 

哲学・宗教史研究No.1

~世界最古の宗教ゾロアスター~

            イラン・ヤズドにある聖地チャクチャク

 

まとめ


●ゾロアスター教はどこで生まれたか

BC1000年(プラスマイナス300年)頃、古代ペルシャ、現代のイラン高原の北東部に、ザラスシュトラという宗教家が生まれました。ザラスシュトラの英語読みがゾロアスターです。その内容はペルシャの地に移住したアーリア人の民族的な信仰を基本において、ザラスシュトラが創始したと考えられています。

●ゾロアスター教が普及した国
古代王朝のアケメネス朝ペルシャ(BC550 -BC330)の創始者キュロス2世(在位BC559-BC330)の時代には、すでにゾロアスター教が広く信仰されていました。サーサーン朝(226-651)の時代に、ゾロアスター教は国境となり、経典『アヴェスター』が編纂・整備されました。

●ゾロアスター教の伝播
ゾロアスター教は、ペルシャを中心に、中央アジアを経て、唐の時代には中国まで広まりました。中国では『祆教(けんきょう)』と呼ばれていました。

●ゾロアスター教の経典
経典『アヴェスター』は、ザラスシュトラの言葉と彼の死後に付け加えられた部分によって構成され、全部で21巻あったといわれています。現在はその約4分の1が残存しています。

ササン朝のシャープール1世(在位241-272)の時代にマニ(216-276または277)という宗教家が登場しました。マニはゾロアスター教の善悪二元論をさらに徹底させ、壮大な二元論の教えを創造しました。マニ教は、中国北アフリカまで広がりました。古代キリスト教の最高の神学者アウグスティヌスも元はマニ教の信者でした。

ゾロアスター教→マニ教→古代キリスト教

●ゾロアスター教の教え
ゾロアスター教の最高神はアフラ・マズダーです。彼が世界を創造した善神です。ゾロアスター教は、人類の守護神であるスプタンタ・マンユを筆頭とする七神と、すべての邪悪を司る大魔王アンラ・マンユ(アーリマン)を筆頭とする七神がいつも争っていると教えます。聖数で一週間のサイクルにも合致します。ゾロアスター教では宇宙の始まりから終りまでのを1万2000年と教えます。それを3000年ずつ4期に分けました。そして、ザラシュトラは、「今の時代は善い神七神と悪い神七神が激しく争っている時代なのだ」と説くのです。世界の終末1万2000年後の未来、世界の終末にアフラ・マズダーが行う『最後の審判』によって、生者も死者も含めて全人類の善悪が審判・選別され、悪人は地獄に落ち、すべて滅び去ります。そして善人は永遠の生命を授けられ、天国(楽園)に生きる日がくるのだと、ザラスシュトラは説いたのです。だからこそ、現世では三徳(善思、善語、善行)を積む必要があるのです。

このようにザラシュトラは『天地創造から最後の審判まで』、劇的な善悪二元論を展開しました。

ゾロアスター教は精霊の存在を信じます。この世の森羅万象に宿る霊的存在のことで、人間にも宿っています。精霊をフラワシと呼び、祖先のフラワシは、生きる人々の守護霊となるとゾロアスター教は説きました。だからこの世に生きている人はご先祖様を、きちんと拝み、祖霊を大切に祀りなさいと。日本で旧暦の7月15日前後に行われる盂蘭盆(うらぼん)は、仏教の行事と思われていますが、根源をさかのぼれば、フラワシ信仰に行きつくのではないかと一部では考えられています。

ゾロアスター教のフラワシ(精霊)信仰→日本の盂蘭盆?

ゾロアスター教にはナオジョテと呼ばれる入信の儀式があります。やがてキリスト教に取り入れられ、洗礼となる儀式です。ローマ教会のような幼児洗礼はありませんでした。7歳頃から15歳までが入信の期間で、人間らしい判断力が身に付き始めた頃にナオジョテは行われました。受信者は清浄の象徴である白い服を身に着けました。

ゾロアスター教のナオジョテ(入信の儀式)→キリスト教の洗礼

●火を祀ること
ゾロアスター教は偶像崇拝をせず、火を信仰したため、拝火教と呼ばれます。ザラシュトラのアーリア人は、インド、イラン、そしてアゼルバイジャンのバクー地方を通ったものと思われます。そこは、石油の大産地今でも自然発火が見られます。どんな天候でも燃え続ける火に、アーリア人たちは神に対するような敬虔な気持ちを抱いたのでしょう。イランのヤズドの地にはザラシュトラが点火したと伝えられる「永遠の火」が、今も燃え続けています。バクーにもゾロアスター教の「永遠の火」を祀る聖地が残されています。インドでは、バラモン教火の神アグニを誕生させ、仏教にも大きな影響を与えました。「永遠の火」を信じる教えは中国日本にも伝わったと考えられています。その象徴が比叡山延暦寺今も燃え続ける不滅の法灯です。から帰京した最澄延暦寺に灯してから、一度も消えることなく今日まで燃え続けていると伝えられています。

ゾロアスター教の『永遠の火』→インド(バラモン教、仏教)、中国、日本

●世界的宗教に影響を与えたゾロアスター教
世界最古の宗教ゾロアスター教に一番多くを学んだのがセム的一神教でした。ノアの3人の息子(セム、ハム、ヤペテ)の中でセムを祖先とすると伝えられている人々をセム族と呼びます。彼らの中から誕生してきたのがユダヤ教キリスト教イスラム教です。

ノア→セム→ユダヤ、キリスト、イスラム

セム族の一部が信じる唯一神ヤハウェが人類救済のための預言者として選んだのがアブラハムです。彼はユダヤ人の祖と目され、ユダヤ教キリスト教イスラム教でも「信仰の父」
そのため、セム的一神教「アブラハム宗教」とも呼ばれます。セム的一神教は、天地創造最後の審判天国地獄洗礼の儀式も、すべてゾロアスター教から学んだのです。

ヤハウェ(セム)→アブラハム(ユダヤの祖、信仰の父)→ユダヤ、キリスト、イスラム

現代社会に影響を与えている宗教は、三つに大別できます。セム的一神教インドの宗教東アジアの宗教です。

・セム的一神教・・・・ユダヤ、キリスト、イスラム ※アブラハム宗教
・インドの宗教・・・・ヒンドゥー教、仏教
・東アジアの宗教・・・儒教、道教、神道(日本)

中国で完成した浄土宗は、必ずしもインド仏教とはいいがたい側面もあり、区別が難しいです。

セム的一神教は、21世紀の今日、世界で50パーセントを超えています。

●ニーチェの『ツァラトゥストラ』
19世紀の哲学者ニーチェの書物で『ツァラトゥストラはこう言った』という著書があります。ツァラトゥストラとはザラスシュトラドイツ語読みです。ニーチェになぞらえて登場する人物です。彼の永却回帰の哲学は、インドバラモン教などの輪廻転生からきているので、善悪二元論のゾロアスター教とは無関係ではないかと思われます。

●鳥葬(補足)
イラン・ヤズドには「沈黙の塔」(ダクマ)と呼ばれる鳥葬用の施設が残されている。石で作られた施設内には遺体を置く台があり、猛禽類に食べさせるようになっている。また腐敗しても乾燥地帯なのでやがて風化し、残された骨も乾燥され漂白する。これらは中央の井戸に投げ込まれて砕かれ土に還る。一見無残な有様にも思える鳥葬だが、乾燥地帯の地理を有効に活用した衛生的にすぐれた葬送方式であった。現在では周辺に住民もおり、ハゲタカなども生息しておらず「沈黙の塔」はヤズドの観光地として有名になっています。

感 想

世界史の教科書レベルでは、ほんの少ししか紹介されていないゾロアスター教(拝火教)ですが、世界的な宗教に大変大きな影響を及ぼしていることがわかりました。

ゾロアスター教の洗礼天地創造終末論的世界観天国と地獄は、セム的一神教(アブラハム宗教)であるユダヤ教、キリスト教、イスラム教へ。そして、ゾロアスター教の火信仰はインドのバラモン教、仏教、中国、日本へ。

インドのバラモン教では火の神アグニ。仏教では極楽と地獄、さらには三業(身・口・意)はゾロアスター教の三徳の影響だと思われます。

日本では、前述した最澄が建立した比叡山延暦寺不滅の法灯があります。また、本書では記述されていませんが、密教のルーツはゾロアスター教とする説もあります。密教には護摩行があります。密教の影響を受けている最澄天台宗空海真言宗は祈祷の際には護摩を焚きます。また、日本の各地では火を祀る行事があり、これらも大元のルーツを辿ればゾロアスター教の影響ではないかとする説があります。

余談ですが、クイーンのフレディ・マーキュリーは、ゾロアスター教徒だったことで有名でした。また、日本の自動車メーカー「マツダ」は、ゾロアスター教の最高神アフラ・マズダーに由来 します。 マズダーを東西文明の源泉的シンボルかつ、自動車文明の始原的シンボルとして捉え、世界平和を希求し自動車産業の光明となることを願って名付けられましたようです。

起源となる宗教を知ることで、物の見方が根本的に変わってきますね。

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